2014年9月1日

『諦める力 〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉』 為末 大 (著) その1



ツイッターで半端ない数のフォロワー(約22万人)がいる為末大さんの本です。

成功したアスリートたちから発せられるメッセージに「努力すれば夢は叶う」系のものが多い中で、本書はそれと正反対とも言えるメッセージを理路整然と発しています。現役アスリート人生を全うした経験に基づく彼のメッセージには大変説得力があると感じました。

 世の中には、自分の努力次第で手の届く範囲がある。その一方で、どんなに努力しても及ばない、手の届かない範囲がある。努力することで進める方向というのは、自分の能力に見合った方向なのだ。
その通りですね。
手の届く範囲、つまりは自分自身の各種能力の限界を人生の早い段階で見極めることは、その後の人生を左右する重要な作業だと思います。アマゾンのレビューの中に本書を中学校の課題図書に推す声がありますが、素直に同意できます。

 人生は可能性を減らしていく過程でもある。年齢を重ねるごとに、なれるものやできることが絞りこまれていく。可能性がなくなっていくと聞くと抵抗感を示す人もいるけれど、何かに秀でるには能力の絞り込みが必須で、どんな可能性もあるという状態は、何にも特化できていない状態でもあるのだ。できないことの数が増えるだけ、できることがより深くなる。
人間は物心ついたときにはすでに剪定がある程度終わっていて、自分の意思で自分が何に特化するかを選ぶことができない。いざ人生を選ぼうというときには、ある程度枠組みが決まっている。本当は生まれたときから無限の可能性なんてないわけだが、年を重ねると可能性が狭まっていくことをいやでも実感する。最初は四方に散らかっている可能性が絞られていくことで、人は何をすべきか知ることができるのだ。
人生の可能性が狭まって色々なことを諦めるということの、負の側面ばかり気にするのではなく、もっと前向きに捉えたら良いと私も思います。そう捉えることができなければ、人間としてのあらゆる能力が着実に衰えていく人生の後半になると特に、生きるのが辛くなるでしょう。

 かくいう僕も、競技人生の前半においては、意味のある人生にしたい、意味のあることを成し遂げたいという思いが強い動機になっていた。でも、メダルを取ったころからふと冷めだした。僕の母が毎日近くの山に登ることと、僕が世界で三番になることの本質的な違いがわからなくなったのだ。
意味を見出そうと一生懸命考えていくと最後には意味なんてなんにもないんじゃないかと思うようになった。人生は舞台の上で、僕は幻を見ている。人生は暇つぶしだと思ってから、急に自分が軽くなって、新しいことをどんどん始められるようになった。
そうですね。
たぶん人生に意味なんてないんだろうなと、私も今のところそう思って生きています。
それにしても、現役時代に走りながらこんなことを考えるアスリートって、なかなかいませんよね。表現しないだけで内心ではそれぞれの思いがあるのかもしれませんが、まるで哲学者のような思いをこうして表現できる元アスリートは希少な存在だと思います。

 アメリカでは引退が非常に軽い。ヨーロッパもアメリカと似たような状況だ。
(中略)
アメリカでもヨーロッパでも、極端に言えば「引っ越しをしたから」くらいの理由で軽やかに引退してしまう。
(中略)
日本とは、引退に対する考え方がまったく違うのだ。
(中略)
日本人は全力を尽くして全うするという考え方が強い。しかも、やめ方は万人に納得してもらえるような美しさがなければならないと思い込んでいる。
これはどう見ても欧米流のほうが良いでしょう。
アスリートだけじゃなく普通の会社員が早期リタイアする場合も、軽やかに引退したらいいと思います。会社辞めるのにあれこれ理由なんて要りませんし、美しさなんてもっと不要です。
こうでなければとあれこれ理由を探したりするのは、これまた一種の縛りプレイだと思います。

人生の目的は絞りにくい。仕事さえうまくいけばいいと思っていたら、隣に幸せそうな家族を持っている人がいるとそれが羨ましくなる。ゆったりとした幸せを生きるのが幸せと思っていても、夢に燃えている人を見るとこんなことではいけないと焦る。幸福の基準を自分の内に持たない人は、幸福感も低くなりがちだ。
分かります。
幸福の基準を外ではなく内に持つこと。これ重要ですね。

そして人生は選択の連続であり、選ばなかった方の人生を生きることはできません。だから人は迷うのです。
そういうときは、以前読んだこの本に書いてあったことを思い出すようにしています。
「人生の選択というのは、どちらが正しい、どちらが間違いという解答はない。同じことを同条件で繰り返すことができないからだ。(中略)
したがって、どちらが正しいでしょうか、という質問に対しては、どちらでも正しいと思える人間になると良い、というのが多少は前向きな回答になる。」

こういう考え方に出会ってから、今まで以上に迷いがなくなり、過去の選択を後悔することも減った気がします。

(つづく)

1 件のコメント:

  1. 人生の選択においては後になって振り返った時に「あの時はそうするしかなかった」と思えることが出来ればほとんど成功していると言えるのではないでしょうか。

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